熊本県伝統工芸館のいま

1982年に開館した熊本県伝統工芸館。その創立には、工業デザイナーの秋岡芳夫とグループモノ・モノが深く関わっています。同館は、大規模改修工事のため2024年9月から休館、2026年3月20日にリニューアルオープンしました。今回は社員研修の一環として、モノ・モノのスタッフ3人で新しくなった同館を訪れました。

熊本県伝統工芸館
右手奥に見えるレンガ色の建物が熊本県伝統工芸館。

熊本県伝統工芸館が生まれた背景

熊本県伝統工芸館は、「手で観る工芸館」「誂えがきく工芸館」「市の立つ工芸館」を基本理念として、1982年(昭和57)8月に熊本城前にオープンしました。その構想段階から深く関わっていたのが、熊本県出身の工業デザイナー・秋岡芳夫です。当時、全国の産地を巡り、地域と共に歩むクラフトの振興に尽力していた秋岡の思想が、上記の3つの基本理念に色濃く反映されています。

当時、熊本県には国の伝産法にもとづく産地指定品はなく、地域の手仕事を守り育てるための新たな枠組みが求められていました。そこで県は独自に「熊本県伝統的工芸品」の指定制度を設け、県内の伝統工芸の需要開拓や振興への取り組みを始めました。その生活文化形成の拠点として、熊本県伝統工芸館が建設されることとなったのです。

「熊本県伝統的工芸品」は、約30年以上の歴史があり、伝統的な技術や技法で作られているものなどが指定の要件となっています。1978年2月1日に指定要項が施行され、県内の陶磁器、木工、金工、竹工芸、染織など、さまざまなジャンルの工芸振興を目的に計画が進められました。

熊本県伝統工芸館では、工芸品を販売するショップを設け、企画展での直売も行われることとなりました。当時、公的機関が「市の立つ工芸館」として工芸品の流通にも関わるのは全国的に見てもめずらしいことでした。同館の歩みや背景をより深く知りたい方は、「秋岡芳夫と熊本県伝統工芸館」も併せてご一読ください。

外国人観光客を意識し、ショップスペースが倍以上の広さに

開館から40年余りの歳月を経て、大規模な改修工事を終えた熊本県伝統工芸館。私は今回が初めての訪問でしたので、改修前の姿を直接知るわけではありませんが、館内は見違えるほど変化しているようです。

冒頭の写真の奥に見えるレンガ色の建物が、熊本県伝統工芸館です。設計は熊本の出身で秋岡芳夫とも交流があった建築家の菊竹清訓(きくたけきよのり)氏。外観は手を入れず、メンテナンスだけを行ってあるそう。

熊本城

伝統工芸館は、熊本城の眼の前にある贅沢な立地。エントランス前では、熊本城を背景に、くまモンと記念撮影できます。当日は小雨が降る天気でしたが、早朝から観光客でにぎわっていました。

特別展示スペース

館内に入ってまず目に飛び込んでくるのは、特別展示スペース。展示の内容は、数ヶ月ごとに変わります。当日は、熊本の竹工家・宮﨑珠太郎氏の作品がお出迎え。

特別展示スペース

1階は、企画展示やショップがメイン。写真手前の「特別展示スペース」には、熊本ゆかりの日本工芸会員による陶芸作品が並んでいました。奥に見えるのは「工芸ショップ匠」。およそ500平米の広さに、地元の工芸品や民芸品、クラフトが展示即売されています。

イベント展示販売スペース

1階の「イベント展示販売スペース」。当日は「宮崎珠太郎 竹のしごと」が催されていました。宮崎氏は竹工芸で有名な「別府クラフト」の育ての親。過去の主要作品が一堂に並んだ様子は見応え十分でした。

学べるコーナー

1階奥のスペースには工芸関連書籍を並べた「学べるコーナー」がありました。本棚の下には、秋岡芳夫がプロデュースした「匹見の101種類の木の椀」が、手に触れられる形で展示されていました。小さい展示でしたが、「手で観る工芸館」の理念をここで感じ取ることができました。

工房

「学べるコーナー」の隣にあるのは様々な工芸のワークショップを行うための「工房」が併設されています。壁が全面ガラス張りで開放感があり、奥に見える年季の入った作業台は、リニューアル前から使用しているものだそうです。

造形家・伊藤隆道氏デザインのシャンデリア

大きなシャンデリアは、造形家・伊藤隆道氏のデザイン。元々は和紙の笠が付いていましたが、熊本地震で破損。しばらく笠のない状態で使用されていたそうですが、今回の改装で、水俣浮浪雲工房・金刺潤平氏による手漉き和紙の新しい笠に修復されていました。

多目的スペース

リニューアル前、2階には郷土の生活用品がところ狭しと並べられていましたが、現在は多目的スペースへ変貌。

収蔵庫

かつて展示されていた資料品は、ガラス張りの収蔵庫へ。特別にその中へ案内してもらうと、ご覧のように「お宝の山」が。今後の企画展示が楽しみです。

テラス席

建物裏手にあるテラス席は、観光客にまだ知られていない穴場スポット。1階の「COFFEE KADO」でコーヒーをテイクアウトすると、緑の中でゆっくりとくつろげます。

池田昌一郎さん(熊本県伝統工芸館・工芸振興班主任主事、学芸員)

案内してくださった池田昌一郎さん(熊本県伝統工芸館・工芸振興班主任主事、学芸員)は、ショップ勤務を経て、現在は館内の展示企画を一手に引き受けています。

最後に、リニューアル後の工芸館の魅力とこれからについて池田さんにお伺いしました。

「改装前の工芸館では、薄暗い中を迷路のように巡りながら収蔵品を観る楽しみがありました。改装した1階のショップでは、照明の明るさを抑えるなど、以前のその雰囲気が残っているので、店内をくねくねと巡りながらお買い物を楽しんでいただけると思います」

「新しくカフェができたことで、10代、20代の方もカフェを目的に訪れることも増えました。伝統的な工芸品に限らず、ハンドメイド作品などの企画展示も開催しています。今まで敷居が高いと感じられていた工芸館が、よりカジュアルな場所として、より多くの人に訪れてもらえることを期待しています」

伝統を大切にしながらも、時代に合わせて進化を続ける熊本県伝統工芸館のこれからが楽しみです。

主任の池田昌一郎さん。貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(スタッフ・東瀬)

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